トータルペインについて
がん患者様の苦しみ ~トータルペイン~
緩和ケアと最も関係が深いものが‘痛み’です。痛みには4つの側面があり、
いくつもの痛みが互いに関連し、影響し合っています。
1)身体的苦痛
最も多くみられる症状としては、がん性疼痛があげられます。がん細胞が痛
みを感じる神経を刺激するために生じる痛みであり、がんが転移することによ
り全身どこにでも起こる可能性があります。骨や内臓の痛みなどさまざまです。
痛みのコントロールについては、 痛み止めについてをご覧下さい。
吐き気も多くみられる消化器症状です。腸閉塞、薬の副作用、腹水貯留、心
理的な問題など様々な原因より発生します。大部分は解消できますが腸閉塞に
よる機械的閉塞があると完全になくすことが難しくなります
肺がんや胸水貯留により、呼吸困難が現れることがあります。多くの場合は
モルヒネを使用することにより和らげることができます。
2)精神的苦痛
検査・診断の不安、病名告知の心理的衝撃、手術や治療の不安、社会・日常
生活への再適応、再発・転移の不安、死との向かい合いなど、がんの経過にお
いて、人は様々な精神的苦痛を体験します。不安、抑うつをはじめ、苛立ち、
怒り、恐怖、孤独感などが生じますが、ある程度は通常の反応です。多くの場
合は、数日から2週間程度で、困難を乗り越えて適応しようとする力が働き出
します。一定の休息を取る、辛い気持ちを周りに話す、現実的に治療に取り組
むなどして、時間の経過に伴い、心も回復していきます。しかし、長い期間辛
い気持ちが回復せず、日常生活への支障が続くようであれば、「適応障害」や
「うつ病」が考えられ、専門的な治療が必要となります。
心の辛さを和らげることは、がんの治療と同じように大切なことです。まず
は、ストレスや心配事を医師・看護師にお話ししてみましょう。場合によって
は心理療法士が詳しくお話を伺います。対話を通して問題を整理し、ストレス
と上手に付き合っていけるようにサポートしています。
3)社会的苦痛
多くの患者様・ご家族は、何らの社会生活上の問題を抱えています。その一
つとして経済的な問題があげられます。医療費の負担増加、休職や退職による
収入の減少は、治療や人生の選択に様々な影響を与えます。また、がんの経過
が長くなった場合には、介護や在宅医療などケアの体制をどのように整えてい
くのかということも重要になります。
また、職場や家庭、地域社会において、それまで担ってきた役割や地位の変
化や喪失がやむをえない場合もあります。家庭内の役割の変化によって、ご家
族の負担が増えたり、家族間の葛藤が生じたりすることもあります。
このような社会的苦痛は、様々な要因が絡み合い患者様・ご家族の生活全体
に影響を与えます。医療ソーシャル・ワーカーがチームの一員として、保険・
福祉制度などの社会資源や福祉サービスを活用し、ご家族や関連機関との調整
を図りながら、サポートしていきます。
4)スピリチュアルペイン
病気や死に直面すると、それまで人生を支えていた生きる意味や目的が脅か
されたり、死後の不安や罪悪感などの苦しみを体験することがあり、このよう
な苦痛をスピリチュアルペインといいます。「なぜ自分がこんなに辛い思いをし
なければならないのか?」「自分の人生の意味はいったい何だったのか?」とい
った苦しみや人生の意味への問いや、「悪いことをしてきたからこんな病気にな
ったのか」「みんなに迷惑をかけてしまう」「死んだらどうなるのか」といった
罪悪感や死への恐怖などがあらわれます。人が生まれ、人間として生き、死を
迎えるにあたって生じる、根源的な深い疑問、強い苦悩といえるでしょう。
私たち緩和ケアチームは、身体的・精神的・社会的苦痛を緩和しながら、患
者様の自分らしさを尊重し、容易には答えが見つからないかもしれない人生の
問いに寄り添っていきたいと考えています。